仕手(して)とは、株価を不正に操作する行為を言い、仕手株(してかぶ)とは株価操作の対象にされる株式を言います。

株価と言うのは、需要と供給のバランスで成り立っていますが、仕手と言う操作で、人為的に需要と供給のバランスを崩して価格を吊り上げます。
株価操作を行う集団を「仕手筋」と呼んでいます。

仕手の名前の由来は、能の「シテ方」(主役と言う意味です)からとられたと言われています。

株価操作の概要

仕手筋は、以下のような銘柄をターゲットに価格操作を行います。
・株価が安い銘柄(低位株)
・発行株数、浮動株数が少ない銘柄
・通常の出来高が少ない銘柄

株価操作を行う場合、ターゲットとなる株を買い占めて、流通量が希薄になるまで買い進める必要があるため、ターゲットの株価が高いとそれだけ資金が必要となるため、安価な株価の銘柄がターゲットになります。
また、浮動株が大量にあると、買い占める株数も増えることから、浮動株比率の低い銘柄がターゲットになります。
ターゲットになる銘柄の普段の出来高も重要なポイントになっており、普段から出来高の多い銘柄は、買い占めの後期に価格が急騰してしまう事もあるので、普段の出来高の少ない銘柄がターゲットになります。

 

株価操作の方法

それでは、株価操作はどのように行われるのか、一例を紹介したいと思います。

 

ターゲットの選定

まずは、ターゲットにする銘柄の選定を行います。
株価が安く、浮動株が少なく、出来高の少ない銘柄を選定します。

ターゲットに浮上したのはA商事です。
A商事は、創業50年を超える商事会社ですが、ここ2年は赤字決済を続けており、今期の業績も赤字の見通しになっています。
配当金を出すこともできず、業績は悪化の一途をたどっており、倒産の懸念もある会社です。
現在の株価は、1株20円の状態が続いています。
浮動株比率を見てみます。
大半の株式は、同族経営であるオーナー一族や関連企業が保有しているため、浮動株は全体の20%以下という事もわかりました。

 

株の仕込み

ターゲットの銘柄が決まったところで、株の仕込みに移ります。
毎日、少しづつ株を仕入れていきます。
できる限り1株20円で仕入れたいので、大きな注文は出さずに、少しづつ買い付けていきます。
目標は、全体の15%に設定します。
できる限り証券会社や口座を分けて買い付けていきます。
これは、1つの口座で株式全体の5%以上を保有すると、大量保有報告書を提出しなければならず、仕込みがバレてしまいます。
また、1個所の証券会社で買い続けると、「手口」と呼ばれる証券会社単位の取引サマリーで、誰かが大量に買い付けていることを知られるので、複数の証券会社と複数の名義で買い付けます。

とにかく静かに、日々の出来高を増やさないよう、ゆっくりと買い進めていきます。

 

株価の操作

目標の株数まで買付が完了すると、次は出来るだけ目立つように買付を行います。
市場に流通しているA商事の株式は、全体の5%しか残っていないので、売り注文も微々たる量になっています。
そこで、残りの売り注文を価格を上げながら買い付けていきます。
買付を続けていくうちに株価はストップ高になりますが、売り注文が入ればひたすら買付ます。

その頃、A商事の株は市場で話題になっています。
いままで20円と言う値段で横這いだった銘柄が急に高騰したのですから無理はありません。
市場の投資家は、何があったのかニュースを検索し始めます。

「A商事が新商品の独占輸入契約を締結?」
A商事の情報筋によると、A商事は中国のB有限公司とB有限公司が製造販売している子供向け玩具の独占輸入販売に向けた契約を進めており、概ね合意に達していると言う。
B有限公司が販売している子供向け玩具は、ヨーロッパやアメリカでは非常に高い人気を誇っており、A商事との独占販売の契約が決まれば、A商事の今期黒字に向けた大きな材料となる。

複数のネット掲示板にA商事の記事が書き込まれています。
複数の投資顧問会社も推奨銘柄に指定されています。
これを見た個人投資家は我先にと買い注文を出します。

株価はストップ高に張付いたままですが、ストップ高では売りが発生しているため、出来高は少しづつ増えていっています。
ストップ高に出されている買い注文に対して仕手筋は少しづつ売りを消化していっているからです。

翌日もストップ高で始まったので、少しづつ売り注文を出して仕込んだA商事株を処分していきます。
投資顧問会社は継続して推奨銘柄として取り上げているので、市場の買い注文は衰える様子はありません。

株価が動いて3日後もストップ高で寄り付きます。
しかし、注文数は徐々に減ってきています。
3日連続のストップ高が続いているので、株価は110円になっており、さすがに様子見をする投資家が増えてきているようです。
仕手筋の平均取得価格は、1株22円程度なので、1株50円以上で半数の株を売り抜ける事ができれば、利益は確定します。
そこで、売り注文を増やして、株価を少し下げる戦略に移ります。

結果的に、3日目には持っている株の3分の2以上を処分する事が出来たので今回の仕手戦は大成功に終わりました。

A商事の株のその後はどうなったかと言うと。
B有限公司との契約の続編が出てこない事からA商事の高騰はすぐに収まり、4日目以降はストップ安を含めて下落が続き、元の1株20円に戻っていきました。

インターネット掲示板に書かれていた情報は、もちろん仕手筋が仕組んだデマで、投資顧問の推奨銘柄も、仕手筋から依頼された推奨だったのです。

 

以上が仕手株の値上がりの一例ですが、このような値動きは年に数回発生しています。

また、仕手株のターゲットになる銘柄は、何度も仕手筋のターゲットになります。
ストップ高を繰り返して高騰したと思ったら、ストップ安を繰り返して元の低位株に戻るというジェットコースターのような相場を定期的に繰り返しています。
「仕手銘柄」で検索すると数銘柄が出てくると思うので、チャートを見て何が起こったかを想像するのも面白いです。

ただし、動いたからと言って飛び乗ったら大変な目に遭う可能性が高い銘柄なので、注意してください。