お金の役割の一つに、価値の保存と固定があります。

お金を使用できるようにするには
・腐ったり溶けたりしない(価値の保存)
・価値が高くなったり低くなったりしない(価値の固定)
が必要になります。

私たちが普段使っているお金は、腐ったりしませんし溶けたりもしません
(紙幣は燃えたり破れたりしますが、通常の使用ではそのような事は稀です)
価値についても今の世の中では高くなったり低くなったりしません。

結論から言えば、価値の保存と価値の固定が出来ない物ははお金として使用できません。

価値の保存と言うのはわかりやすいですが、価値の固定と言うのはいまいちピンとこないですよね。
それでは、お金が存在する以前の時代から現在に至るまでの出来事を振り返りながら価値の保存と固定について考えていきましょう。

肉や木の実の物々交換

お金が存在するまでは、物々交換で欲しいものを手に入れていました。
自分の余っている物と、誰かの余っている物を交換するのが物々交換です。

初期の物々交換は、狩りをして得た肉や、野山で見つけた木の実や果物の交換がメインでした。
肉や木の実の特徴を考えてみましょう。

価値の保存

まずは価値の保存についてですが、肉は腐りやすいと言う特徴があります。
肉を手に入れても数日で腐ってしまいます。
現在は冷凍保存と言う保存方法があるので、数ヶ月は保存する事が可能ですが、年単位の保存は難しいですし、一度融かしてしまうと品質が下がってしまうので、価値の保存と言う機能は持っていません

木の実はもう少し長持ちしますが、基本的に1年くらいが限度でしょう。
保管中に芽が出る事もあるでしょうし、虫に食われる可能性もあります
という事で、肉に比べると価値の保存は出来ますが、お金として使用するには難しいという事になります。

価値の固定

次に価値の固定について見ていきましょう。
物の価値と言うのは、需要に対して数(供給)が少ないと高くなり、数(供給)が増えると低くなる傾向があります

肉の価値ですが、動物がたくさん獲れた場合は供給が増えるので価値が下がりますし、狩りの失敗が続くと供給が減るので価値が上がります
しかも、長期間の保存が出来ないので、獲物が獲れない日が数日続くと一気に価値が上がります。
と言う事で、肉は価値の固定にも向いていないという事になります。

木の実の場合はどうでしょう。
木の実と言うのは季節によって全く採れない時期があります。
例えば栗は秋になればたくさん採れて価値は低くなりますが、それ以外の季節では全く採れないので徐々に価値が上がっていきます。
夏になるとほとんど供給されない状況になっているので、価値が高くなっていますが、数ヶ月後の秋に大量に収穫され、一気に価値が下がります。
つまり季節によって流通量が変わってくるのです。
従って、木の実も価値の固定には向いていないという事になります。

 

石や貝殻

次に物々交換の途中から採用された貝殻や石はどうでしょう。
肉や木の実に比べるとお金に近くなってきています。

石や貝殻についても、お金の特徴をもっているのか検証していきましょう。

価値の保存

貝殻・石は、共に腐ったり溶けたり蒸発する事はありません
常に持ち歩く事を想定しても、丁寧に扱えば数年から数十年の耐用年数はあります。
落すと割れるような貝殻や石もありますが、丈夫な貝殻や石を選んで使えば価値の保存と言う条件は満足します
従って、価値の保存と言う条件は満たしていると考えて問題ないでしょう。

価値の固定

次に価値の固定です。
流通量が急に増えたり減ったりしないかと言うポイントで検証すると、

貝殻も石も長期的な保存が効くという事は、流通量が急に減るという事はありません
あとは流通量が急に増える事がなければお金として使用する事が可能になります。

貝殻は海辺に行けばたくさん落ちています。
元々は貝と言う生き物なので、貝が繁殖すれば貝殻もどんどん増えていきます。
誰でも海や川に行けば手に入れる事ができるので、最初は珍しい貝殻でも時が経つにつれて珍しくなくなります
珍しくなくなるという事は希少価値が減っていくと言う事になります。
海や川から遠く離れた地域なら希少価値を維持する事は可能でしょうが、一般的な地域では価値の固定と言う機能は持っていない(あるいは低い)という事になります。

石の場合はどうでしょう。
石の種類にもよりますが、ダイヤモンドやルビー・サファイアと言った珍しい宝石であれば採掘量が限られているため希少価値を維持する事が可能と思われますが、何かのタイミングで鉱山が発見されると流通量が一気に増える可能性があります
従って、貝殻よりはお金に向いているが、お金の要素としては若干弱いと言うことになります。
金・銀・銅などの貴金属についても同様です。
採掘量が限られているので、価値の固定を行いやすいですが、万一どこかで大量に発掘されると価値が下がってしまい、お金として機能しなくなります。
従って、石や貴金属はお金に近い使い方は出来ますが、完全にお金としての機能は持っていないと言う事になります。

ちょっと待て!
現在流通している硬貨や金貨は金属やんけ!貴金属はお金として使えてるやろ!
と言う意見が出るかも知れません。
確かに硬貨は金属でできています
しかし硬貨は金属を加工して、複製が難しいように作られています
貴金属単体でも重さなどで価値を固定(金100gはいくらとか)する事も可能ですが、常に重量計を用意する必要があります。

昔は、重量計で計量していたようですが、金の中に鉛を混ぜたりされることもあるため、安心して取引するのは難しかったようです。

 

硬貨や紙幣

それでは、硬貨と紙幣についても見ていきましょう。
現在、お金として流通しているので、お金の条件を満たしているのはわかっていますが、上に挙げた2つの機能があるか検証してみましょう。

価値の保存

まずは価値の保存です。
硬貨も紙幣も腐ったり溶けたり蒸発したりすることはありません。
常に持ちある事を想定しても、貨幣の場合は壊れたりすることもかなり少ないですね。
(いまだに昭和中期の貨幣が流通している事を考えると耐用年数は50年以上あると考えられます)
紙幣は紙なので耐用年数は落ちますが、数十年は使えると考えて問題ないと思います。
そこで、価値の保存と言う機能は満たしていると考えて問題ないでしょう。

価値の固定

次に価値の固定です。
現在流通している紙幣や硬貨は、政府や中央銀行が発行しているため、それ以外の人や企業が製造することは固く禁じられています。
従って、流通量が急に増えたり減ったりすることがないので、価値の固定と言う機能も持っていると言えます。
と言いつつ、誰かが偽造したら流通量のコントロールが出来なくなります。
ここでは、偽造の可能性を検証していきましょう。

硬貨も紙幣も材質だけを考えると価値を固定できているとは言い難いです。
銅やアルミは採掘すれば増やすことはできます。ましてや紙幣は紙でできているので、いくらでも作ることができます。
従って、材質と言う面で考えると大量に貨幣や紙幣が作られる可能性があるため、価値の固定は難しいと考えられます。

価値の固定が難しい材質でも特殊な形や、特殊な印刷をする事で、容易に複製できないようにすれば大量に作られることを防ぐことができます。

まずは硬貨についてです。
現在、日本で流通している硬貨は、額面の金額以上の製造コストがかかると言われています。
(500円玉を作るコストは500円以上かかるといわれています)
技術的には複製が可能でも、コストの問題で硬貨の複製は意味がないという事ですね。
従って、硬貨は価値の固定と言う機能を

持っていると考えて問題ないでしょう。

次に紙幣についてです。
硬貨と同様に製造コストを考えると、紙幣の製造コストは額面の金額以下と言われています。
つまり、紙幣を製造する技術があれば、紙幣を複製して不正にお金を増やすことが出来ます。

という事は、紙幣は価値の固定が出来ないのか?

そういう訳ではありません。
各国で作られている紙幣は、非常に高い技術を使って作られています。
・透かし
・マイクロ文字
・フォノグラム
・材質
などの現在考えられる技術を投入されています。
100%同一の紙幣を作ろうとしたら、技術的な投資や印刷機械への投資で膨大な資本投下が必要になります
精度の低い偽札を作ってもバレるリスクとコストを考えると割に合わないと言えるでしょう。
(通貨偽造は、無期懲役を含む3年以上の懲役となります)

お金のない人が数千万円の設備投資をする事は考えにくいですし、大量に偽札を作ればバレる確率も高くなるので、お札の偽造は割に合わないため、価値の固定と言う機能を持っていると考えて問題ないでしょう。

 

電子マネーや仮想通貨

次は、現在利用が増えている電子マネーや仮想通貨について検証していきましょう。


電子マネーとはお金と言う物体は存在せずデータとして管理しているポイントで、一定の比率でお金と交換する事を保証しているポイントです。
例えば、SuicaやPayPayや楽天ポイントなどが有名で、1ポイント=1円として入金や買い物ができます。

仮想通貨も電子マネーと同様に、お金と言う物体は存在しません
また、お金(通貨)との交換比率も保証されておらず、独立した通貨として存在しています

価値の保存

価値の保存についてですが、電子マネーや仮想通貨は電子データとして存在しているので、データが消えてしまうと価値も消えてしまいます
また、データを改ざんされると流通量が増えたり減ったりします
単純に考えると、データ消失や改ざんの可能性があるため、価値の保存は出来ていないという事になります。
逆に、データ消失や改ざんができない仕組みを作れば価値の保存は可能という事になります。
仮想通貨の多くはブロックチェーンと言う技術で管理されています。
ブロックチェーンの詳細な説明は、Wikipedia等にお任せするとして、大まかに説明すると
インタネット上の沢山のパソコンにデータを分散して保管する仕組みです。
複数のパソコンに同一データが保管されているため、パソコンが壊れても他のパソコンにデータが保管されているので、データ消失の可能性は、ほぼゼロになります。
また、データの改ざんも複数のパソコンのデータを同時に更新する必要があるのと、データを保存しているパソコンを特定する事が非常に難しいため、事実上改ざんは不可能と言われています
従って、仮想通貨は価値の保存と言う機能を持っていると考えて問題ないでしょう。

電子マネーについてはどうでしょう。
仮想通貨と同様に、データの消失や改ざんの可能性を検証します。
データの消失についてですが、電子マネーを運営している企業は、何重にもデータのバックアップを取っているため、何らかの障害が発生した場合でも速やかにデータ復旧が可能です
データの改ざんについては、運営企業で改ざんする事は可能ですが、データを改ざんした場合は利用者が気づきますし、電子マネーへの入金ルート(クレジットカードの利用履歴や銀行からの入金記録など)を探ればどのように改ざんしたかも証明する事ができるため、事実上は改ざん不可能です
従って、電子マネーも価値の保存と言う機能を持っていると考えて問題ないでしょう

価値の固定

次に価値の固定について検証します。
電子マネーは、「1ポイント=1円」など、法定通貨(日本では「円」)との交換比率を明言しているので、価値の固定と言う機能も持っています。
電子マネーが使える店であれば1ポイント=1円で使用できますし、現金に戻したい場合はいつでも現金に戻すことができます
(現金に戻す場合は手数料が必要となるケースが多いですが)
従って、電子マネーはお金として使用する事が可能と言う結論になります

仮想通貨についてはどうでしょうか。
仮想通貨は、基本的に何かとの交換レートは固定されていません
仮想通貨を手に入れたい場合は、仮想通貨の取引所などで購入する必要があります。
購入価格は、その時々の時価で取引されます。
つまり、株式や為替取引のように、売りたい人の金額と買いたい人の金額が一致したら取引が成立すると言う仕組みのため、価格の変動が発生します
価格の変動に大きな影響を与える、流通量については多くの仮想通貨が発行数に制限を設けているため、急に増えるケースは少ないですが、仮想通貨の種類が増えてくると、仮想通貨全体の希少性は少なくなってくるため、価値が低くなる可能性も否定できません。
従って、仮想通貨は価値の固定と言う機能は若干低いと言う結論になります

日本で生活する場合、ドルやユーロと言った外貨も仮想通貨と同様の特徴を持っています
価値の保存で言えば、アメリカ政府やユーロ中央銀行が価値を保証しているため、価値の保存と言う機能を持っています
しかし、価値の固定を考えた場合、円との交換レートは日々変動しているため、日本国内で使用する場合は価値の固定ができなくなります
アメリカやヨーロッパで生活するなら価値の固定ができますが、その場合は日本円は価値の固定ができなくなります。
従って、外貨についても価値の固定が若干低いと言う結論になります。

 

まとめ

お金の機能のうち、価値の保存と固定の勉強をしてきましたが、「価値の保存」と言う機能を持ったものは沢山存在しますが、「価値の固定」と言う概念がないと、通貨として使い辛いと言う事と、「価値の固定」が出来る物は少ないという事がわかったと思います。
2020年現在の日本では、日本政府が価値を保証しないと価値の固定は難しいです。
日本の政府が価値を保証しているお金は「円」だけなので、お金として流通できるのは、
・円
・円と交換比率を保証しているポイント
のみとなります。

話しは若干それますが、お金の機能である価値を保存したり固定するという事は、増えもしないし減りもしないと言う事になります。
今後、他の記事で詳しく説明する予定ですが、お金を増やすという事は、お金を貯めるという事ではないという事がわかりますね。
お金が貯まるというのは、増やすという行為をした結果であって、貯金と言う行為ではないという事です。
(正確には利息がついて少しずつ増えますが、現在の日本では利息は微々たるものなので、貯金でお金を増やす事はできないと考えて差し支えありません)

お金を増やすには、お金に変換できる資産を保有し、資産運用を行った結果をお金に変換するのが一番の近道だと言う事です。

 

最後までご覧いただきありがとうございました。

 

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